燃料電池×インフラ最新動向:水素社会の実現課題と各社の対応紹介

経済
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2050年カーボンニュートラル達成に向けて、水素は主要エネルギーの一角を担うことが期待されています。

本記事では、政府のロードマップから技術動向、インフラ整備、そして日本企業の取り組みまでを幅広く解説します。

政策とロードマップ

政府は2017年に「水素基本戦略」を公表し、2050年のカーボンフリー社会を見据えて水素の利活用を推進しています。

以降、燃料電池やインフラ整備のロードマップを以下のように改訂し、具体的な目標と技術開発計画を示しています。

  • 2019年3月:ロードマップ初版公表
  • 2023年2月:FCV(燃料電池車)/HDV(大型車両)向け技術開発計画を改訂
  • 2025年3月:家庭用/産業用燃料電池の実用化工程を最新版に更新

このロードマップでは、2030年までに水素製造コストを2円/Nm³程度に引き下げる目標や、燃料電池システムの耐久性向上などを掲げています。

燃料電池技術の種類と特徴

燃料電池は用途や動作環境に応じて複数の方式が開発されています。主要4方式を比較すると次のようになります。

方式

電解質

動作温度

主用途

課題

PEMFC

固体高分子電解質膜

60–80℃

FCV(自動車)、家庭用

耐久性向上、白金触媒削減

SOFC

固体酸化物セラミックス

600–800℃

大型定置・産業用

起動時間短縮、材料耐久性

AEMFC

陽イオン交換膜

40–80℃

次世代モビリティ

イオン伝導性、電解質耐久性

SOEC

固体酸化物膜(電解)

700–900℃

水素製造プラント

サイクル耐久性、起動柔軟性

サプライチェーン全体像

水素社会には「製造→輸送・貯蔵→供給→利用」の各フェーズで技術革新とコスト低減が不可欠です。

  • 製造
    • 再生可能エネルギー由来の水電解(水素製造コストの低減)
    • 化石燃料+CCUS併用(大量生産とCO₂排出抑制の両立)
  • 輸送・貯蔵
    • 高圧ガス(70MPa)ボンベ輸送
    • 液化水素(–253℃)タンカー輸送
    • 化学液体(MCHなど)による常温輸送
    • 地中・大型タンク貯留技術
  • 供給・充填
    • 高圧水素ステーション(主にFCV向け)
    • オンサイト水電解式小型充填装置(家庭用・業務用)
    • 安全規格・認証制度の整備で利用拡大

課題とコスト目標

水素社会実現に向け、以下の技術目標・コスト目標が設定されています。

  • 水素製造コスト:2030年までに2円/Nm³以下
  • 充填ステーション整備費:1基あたり2,000万円以下
  • PEMFC耐久性:5,000時間から8,000時間へ向上
  • SOFC効率:現在35–40%から85%超へ(長期目標)

これらを達成するため、材料研究や製造プロセス革新、安全性評価の標準化が急務です。

日本企業の主な取り組み

日本企業は技術開発から商用化、実証試験まで多方面で動きを見せています。

代表的な事例をまとめました。

企業名

取り組み内容

トヨタ自動車

MIRAIシリーズ(FCV)の販売拡大と高耐久セルの開発

パナソニック

家庭用PEMFC「エネファーム」の普及促進とシステム小型化

ENEOS

液化水素プラントの建設と全国的な水素ステーションネットワーク整備

川崎重工業

液化水素タンカー「SUISO FRONTIER」の建造・運航実証

いわたに

高圧水素ガス容器の製造とステーション整備、燃料電池車向け供給インフラ構築

東芝

SOFC・SOEC技術の研究開発と大型定置発電システムの実証

JERA

再エネ・水電解プラントの共同開発、CCUS併用による大規模グリーン水素生産プロジェクト

トヨタを掘り下げて調べます。

トヨタの水素社会実現に向けた取り組み

第3世代燃料電池システムの開発

2025年2月、トヨタは新型燃料電池システム(第3世代FCシステム)を公式発表しました。従来比で

  • 耐久性能:約2倍
  • 低コスト化:部材選定・設計革新で実現
  • 商用車・大型車両への対応拡大

といった性能向上を果たし、家庭用から産業・船舶・鉄道まで幅広い用途での実用化を見据えています。

FCV「MIRAI」の普及拡大

2014年に初代MIRAIを市場投入して以降、30か国以上で累計約28,000台を販売しています。2019年からはバスや定置発電向けにも燃料電池システムの供給を開始し、グローバルで2,700基を超えるステーションに展開しています。国内では東京都や島根県を皮切りに、多くの自治体や企業と連携した社会実装モデルを進めています。

多用途展開と社会実装

トヨタの燃料電池システムは、自動車以外にも以下の領域で実証・導入が進んでいます。

  • トラック/バス:持続可能な物流・公共交通の実現
  • 船舶:CO₂無排出の港湾船舶用動力源
  • 定置型発電:工場やビル向けカーボンフリー電源
  • 特殊車両(除雪車・建機など):多機能車両への適用

これにより、水素エコシステムのパイロットモデルから本格展開へとステージが移行しつつあります。

インフラ整備と国際協調

H2 & FC EXPO 2025での初披露

第3世代FCシステムは、2025年2月に東京ビッグサイトで開催された「H2 & FC EXPO」で初めて公開され、商用分野への適用可能性をアピールしました。

Goodwood Festival of Speed 2025

英国「Goodwood Festival of Speed 2025」では、トヨタGAZOO Racingが第3世代燃料電池ハイパーカーコンセプトを公開し、競技用ノウハウをベースとした技術力を世界に示しました。

海外展開

2026年以降、欧州・北米・中国市場へ大型商用車向けの投入を計画。各地域の規制動向に合わせた製造・調達体制の構築を進めています。

実証プロジェクト事例

  • 福島再生可能エネルギー研究所:再エネ由来水素の製造・供給・活用を一体運用
  • 神戸港液化水素輸送実証:豪州からの液化水素タンカー輸送と陸上再気化プラント稼働
  • HySTRAプロジェクト:北海道・苫小牧でのアンモニア分解水素サプライチェーン実験

今後の展望

今後は「グリーン水素」の大量生産体制構築と用途拡大が鍵となります。

自動車だけでなく、船舶・航空機・鉄道など多種モビリティへの燃料電池適用や、大規模地中貯留、高圧供給ネットワークの標準化が進むでしょう。

産官学連携での技術統合と国際連携も一層加速する見込みです。

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