はじめに
国内では「1MW(=1,000kW)以上」の大規模太陽光、いわゆる“メガソーラー”の計画・施工が各地で進んでいます。
ここでは、いま動きが見える代表的な案件、メガソーラーの定義と仕組み、北海道で話題になった“林地開発許可”の疑義、そして着工前に必ず確認すべき法規制を、実務目線でまとめます。
いま進んでいる・注目を集めている主な案件
容量ベースで全国に「メガソーラー(1MW以上)」の計画・施工中が約15〜20GWくらい(=数千件規模)は走ってる、と見ておくのが現実的です。
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北海道・芦別市
事業者の公式発信と行政手続が進み、環境アセスの“配慮書”段階を終えたフェーズです。規模は大、炭鉱跡地等の活用が論点です。 -
北海道・白老町(石山地区)
新規計画に対して住民側から反対署名の提出があり、説明や情報公開のあり方が注目されています。面積は30ha前後とされる情報が中心です。 -
北海道・釧路市(湿原周辺・複数計画)
自然環境への影響懸念が大きく、自治体は抑制的な姿勢を明確化。事業者側の対応や行政手続の厳格化が焦点になっています。 -
宮城県・仙台市太白区(秋保・作並エリア)
森林規模の大きい構想が取り沙汰され、市は“出力や森林面積に応じた強い自粛方針”を打ち出しました。計画実体や関連施設の位置付けが引き続き注視点です。 -
福島県・福島市(先達山)
工事が進み、運転開始が近いとみられる案件です。反射光・景観、林地の安全対策などが住民説明の主要テーマになっています。 -
静岡県・伊東市(伊豆高原)
長期にわたり物議を醸す計画で、許認可の進捗が乏しい状況が続いています。市は最新状況を適宜公表しており、“停滞中だが火種は消えていない”案件です。 -
奈良県・平群町
造成工事が進むなか、土砂流出等のトラブルが報じられた案件です。治山・排水・斜面安定など土木設計の適正さが正面から問われています。 -
広島県・廿日市市(吉和)
ゴルフ場転用をめぐる動きが話題化。森林・水源・観光景観の三点が論点で、地元議会の注視が続いています。 -
長崎県・佐世保市(宇久島)
国内最大級の規模。工事は継続しているものの、スケジュールの見直しが繰り返し話題になります。離島系統・送電・環境・合意形成という難所の集約例です。
メガソーラーって何?
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定義の目安:出力1MW以上の太陽光発電所を一般に“メガソーラー”と呼びます。
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DCとACの違い:
パネル合計は直流(MWdc)、電力会社とつながる側は交流(MWac)です。環境アセスや系統はACベースで語られることが多い点に注意します。 -
面積の目安:1MWあたり約2ha前後(地形・配置・傾斜で増減)。
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年間発電量の目安:1MWで約100万kWh/年(日射条件で変動)。一般家庭約300世帯分の電力に相当するイメージです。
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事業スキーム:
近年はFITからFIPへ移行しつつあり、市場売電+プレミアムや、企業PPA(自己託送含む)など多様化。系統接続契約(送配電会社)と設備認定(経済産業省系)が関門です。 -
環境アセスの基準感:
出力が大きいほど手続が重くなり、概ね30〜40MW(AC)以上で国法の環境影響評価の枠に入ります。加えて都道府県の条例で上乗せがあるのが実務の注意点です。
北海道で“林地開発許可を得ずに着工した疑い”とは?
北海道の一部案件で、林地開発許可を得ないまま工事に着手したのではないかという報道・指摘があり、行政が是正指導や工事の一部中止を求めたという流れがありました。
最終的な可否判断や処分は個別ケースの審査に委ねられますが、背景には以下の制度改正と運用強化があります。
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太陽光に係る林地開発の許可基準の厳格化
2023年以降、太陽光目的で森林を開発する場合は「0.5ha超」で原則許可が必要という基準に強化されました(従来は1ha超が一般)。 -
保安林は原則設置不可
保安林指定地はそもそも設置が難しく、隣接・周辺であっても土砂災害・治山・水源涵養の観点から厳格な審査が行われます。 -
自治体の抑制姿勢
景観・観光・生態系・土砂の観点で、自治体が条例やガイドラインで上乗せ規制・自粛要請を行うケースが増えています。
施工前に“必ず”確認すべき主な法・手続
実際の適用は立地・規模・周辺指定の有無で変わります。自治体窓口や専門家(森林・土木・電気・環境)と早期に突き合わせするのが鉄則です。
1) 土地・用途関連
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森林法(林地開発許可):太陽光目的は0.5ha超で許可。治山・土砂・水文条件の審査。保安林は原則不可。
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農地法:農地転用の許可(第4種等含む)。耕作放棄地でも「農地」なら転用要。
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都市計画法:市街化調整区域・用途地域の開発許可、開発面積のしきい値に注意。
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景観法・景観条例:景観計画区域・眺望配慮、色彩・高さ制限、反射光対策。
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自然公園法・自然環境保全法:国立・国定・都道府県立公園や保全地域の行為制限。
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文化財保護法:埋蔵文化財包蔵地の事前協議・試掘。
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河川法・道路法・港湾法:占用・工作物・搬入路の許認可。
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砂防法・土砂災害警戒区域:指定状況と対策工の要否確認。
2) 環境評価・水・騒音
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環境影響評価法(+各都道府県条例):規模や区域でフルアセス/スクリーニング。
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騒音・振動規制:造成・工事の時間帯規制、近接住宅への配慮。
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水質・濁水対策:仮設・恒久の排水計画、雨水流出抑制、法面緑化。
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生態系配慮:希少種・鳥類の繁殖期調整、移動経路・営巣地配慮。
3) 電気・安全・事業認定
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電気事業法:事業用電気工作物の技術基準、主任技術者選任、保安規程。
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再エネ特措法(認定/FIP):事業計画認定、適正な廃棄費用積立、表示義務。
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系統接続(送配電):系統増強費、出力制御、連系申込み~契約~試運転。
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消防法・労働安全衛生法:蓄電池併設時の安全対策、工事中の労安体制。
4) 住民・合意形成
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説明会・縦覧・意見募集:アセス各段階での住民参加。
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施工交通・重機動線:学校・生活道路・観光動線への配慮、警備計画。
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生活環境対策:反射光・景観スクリーン・騒音・粉じん・工期管理・情報公開。
SNSでの“メガソーラーパネル”に関する声
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森林を削るなら別の再エネのほうが良いのでは。
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耕作放棄地の活用なら賛成、森林は極力残してほしい。
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反射光で近隣がまぶしい、角度や表面処理で抑えてほしい。
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大雨のたびに濁水が出ないか心配。排水計画を見せて。
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工事車両の通学路対策は必須。時間帯を分けてほしい。
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野生動物の通り道が切れるのは気がかり。緑地コリドーは作れないの?
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山間部は土砂災害の既往をチェックしてから着工して。
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景観スクリーン(植栽・フェンス)を初年度から整えてほしい。
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企業PPAで地元企業の脱炭素に役立つなら歓迎。
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降雪地の除雪・落雪計画は?道路に落ちないか。
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FITよりFIPで市場連動なら納得感がある。
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施工後の維持管理費、誰がどこまで責任を持つ?
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停電時の非常用電源として地域に提供できる仕組みが欲しい。
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鳥の営巣期に合わせて工期を調整してほしい。
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発電所の“撤去計画”と費用積立を事前に説明して。
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砂防指定地や警戒区域の図面を公開してほしい。
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観光地は眺望への配慮がカギ。見える面を抑える配置を。
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施工中の粉じん対策と洗車設備の設置は必須。
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生活道の路肩補強やガードレールの一時設置をお願い。
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反射シミュレーションの結果を住民にもわかる形で。
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豪雨時の一時貯留・沈砂池を増やしてほしい。
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ソーラーシェアリング型のほうが地域に合う場所もあるのでは。
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地元工事会社の参画を増やして経済循環を。
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冬季の融雪水で濁水が出ないよう配慮を。
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防犯カメラや巡回で不法投棄を抑止してほしい。
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パネルの反射が道路標識に当たらないか確認して。
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林床の保護と法面緑化の樹種選定を丁寧に。
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近隣の不動産価値への影響、データで説明を。
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蓄電池併設で出力の平準化をしてほしい。
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事業者・自治体・住民の協定書を公開して信頼を高めて。
まとめ
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国内ではメガソーラーの“パイプライン”がなお厚く、森林法・環境アセス・系統の3点セットが審査・議論の中心です。
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北海道の無許可疑義は、許可基準の強化(0.5ha超)と自治体の監視強化が背景にあります。
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実務では、法令・指定・地形水文・生活環境・地域合意を早い段階から並走させるのが、後々の不確実性を最小化します。
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