日本の希望と、敵対国の資源カード化をどう見るべきか
「南鳥島近海のレアアース」と聞くと、最近突然見つかった“新ネタ”のように見えますが、正確には**存在自体は以前から確認されていて、いまは“実証段階が前に進んだ”**という理解が近いです。特に2025年末〜2026年初めにかけて、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が南鳥島EEZ海域で採鉱システム接続試験を進め、2026年2月には「ちきゅう」船上で最初の揚泥(ようでい)を確認した、という動きが大きな節目になっています。
この記事では、南鳥島近海のレアアース酸化物(レアアース泥として存在する資源)について、いま何が分かっているのか、日本政府・研究機関の動き、そして中国など外部勢力の「資源を外交カード化する動き」をどう見るべきかを、できるだけ分かりやすく整理していきます。
まず南鳥島とはどこか
ここが日本の資源安全保障の最前線です
南鳥島は東京都小笠原村に属する日本最東端の島で、東京都心から南東約1,950kmに位置します。面積は約1.5km²と小さいですが、この島を基点に広大なEEZ(排他的経済水域)が設定され、日本の海洋権益を支える重要拠点になっています。東京都の公式サイトでも、南鳥島周辺海域でレアアース泥やコバルトリッチクラストなどの海洋鉱物資源が発見され、調査研究が進んでいることが明記されています。
地理的にも特徴的で、南鳥島は海山の頂部にあたる島です。東京都の案内では、周辺海域の水深は約6,000mに及ぶとされていて、ここでの資源開発は「見つければ終わり」ではなく、超深海で安全に採る技術が勝負になります。だからこそ、日本の強みである海洋工学・深海探査技術がそのまま国力に直結するテーマになっているわけです。
「レアアース酸化物が新たに発見された」のか?
正確には“資源量の把握”と“実証の前進”がポイントです
レアアース資源の話でよく引用されるのが、東京大学の研究チームによる成果です。東京大学の公表内容では、南鳥島EEZ南部海域の約2,500km²の海底に、レアアース酸化物換算で1,600万トン以上という膨大な資源が眠る可能性が示されました。しかも、粒径分離(粒の大きさで選り分ける方法)によって、レアアース泥中の総レアアース濃度を最大2.6倍まで高められる可能性も示されています。これは単に「資源がある」だけでなく、採算性や処理効率の改善余地があることを示した重要なポイントです。
つまり、話の核心はこうです。
-
昔から“あるらしい”ではなく、資源量の可視化が進んだ
-
さらに、濃縮・選鉱の技術的見通しも出てきた
-
そして今、採鉱システムの実証が進んでいる
この3段階がつながってきたことで、南鳥島のレアアース泥は「夢物語」から「国家戦略の具体案件」に変わってきています。ここを見落とすと、「また研究の話でしょ」で終わってしまいますが、実際はかなり段階が進んでいます。
日本政府と研究機関は何をしているのか
いまの日本は“探査だけ”ではなく、供給網づくりまで見ています
JAMSTECの2025年12月の発表では、南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の実施が公表され、背景として、経済安全保障の観点からレアアースの安定供給を担うサプライチェーン構築を目指していることがはっきり書かれています。さらに、探査だけでなく、採鉱・分離・精製・製錬の実証までを視野に入れている点が重要です。これは「掘る技術」だけでなく、「使える形にして国内外で回す」ところまで見ている、かなり本気の設計です。
そのうえで、2026年2月2日のJAMSTEC速報では、地球深部探査船「ちきゅう」が1月17日に現場海域へ到着し、1月30日から最初の回収作業を開始、2月1日未明に最初のレアアース泥が船上に揚泥されたことが確認されたと公表されました。ここは大きなニュースです。なぜなら、資源開発では「埋蔵量がある」よりも、現場で回収できたという事実のほうが実務上の重みが大きいからです。
また、SIP第3期(内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム)でも、海洋安全保障プラットフォームの構築として、レアアースを対象に探査・採鉱・分離・精製・製錬の一貫生産システムを検討することが主要目標として示されています。加えて、海洋環境影響評価や広域モニタリング技術も同時に位置づけられており、「採れれば何でもいい」ではなく、環境面の社会受容性も込みで進める設計になっています。これは国際社会に説明していく上でも重要です。
経産省側の文書でも、SIP第3期の中で南鳥島海域での探査・採鉱・選鉱・製錬・精製の実証試験を進め、海洋環境と共存した新たなサプライチェーン構築を加速する方針が示されています。さらに、鉱区設定に必要な基盤情報やコア資料の取得・保管、民間参入に必要な技術開発・ノウハウ整備まで書かれており、これは単なる研究予算ではなく、将来の産業化の土台づくりです。
ここは日本の良いところで、派手な言葉よりも、実証・環境評価・制度設計を並行して進めている点に強みがあります。時間はかかりますが、逆に言えば、こういう分野は雑に進めるほうが危険です。深海資源は一発勝負ではなく、技術・制度・社会受容の三位一体で進めるしかありません。SIPの設計は、その現実を踏まえたものだと評価できます。
周辺国・関係国はどう動いているか
いま起きているのは、資源をめぐる“静かな地政学”です
4-1. 中国の動き
最も批判すべきは「資源を政治カード化する姿勢」です
中国はレアアースの供給・加工で圧倒的な存在感を持っています。Reuters報道では、中国は世界の加工済みレアアースおよびレアアース磁石の分野で90%超を握っているとされ、別記事でも精製能力の9割、鉱山産出の約7割を占めると報じられています。この構造自体が、各国にとって大きな経済安全保障リスクです。
そして問題なのは、その優位性を政治・外交の圧力として使う動きです。Reutersによると、2025年10月には中国がレアアース輸出規制をさらに強化し、規制対象を増やしたうえで、採掘・精製に関わる設備や材料にも制約を広げました。これは単に「自国資源の管理」ではなく、他国の代替供給網づくりまで遅らせる効果を持ちます。正直、こうした動きは自由貿易の精神に反しますし、国際市場にとって極めて悪質です。
さらに2026年1月には、中国が日本向けの軍事用途向けデュアルユース品輸出を禁止し、Reutersはそこに特定のレアアース元素も含まれると報じています。日本政府はこれを「絶対に受け入れられない」と抗議したとされており、まさに資源供給が外交摩擦の延長で揺さぶられる構図が現実化しています。こういうやり方は、相手国の産業や安全保障に圧力をかける“経済的威圧”と受け取られても仕方ありません。批判されるべきです。
しかもReutersでは、中国の輸出管理強化を受けて、日本企業TDKのCFOが「材料調達が極めて困難な段階に達している」と述べ、長期的には調達先分散が必要だと語っています。つまり、これは政治ニュースではなく、すでに実際の企業活動にダメージが出始めている話です。資源を“脅しのカード”に使う国が相手なら、日本が供給源を分散し、自前資源の開発を急ぐのは当然です。むしろ遅らせる理由がありません。
4-2. 韓国の動き
韓国も「脱・偏在リスク」に舵を切っています
韓国(MOTIR=産業通商資源部)の2026年2月の発表では、レアアース供給網の包括対策が示され、17種類すべてのレアアースを重要鉱物に指定し、短期の需給管理、供給源多角化、国内生産能力の強化まで含めた三本柱で対応する方針が示されています。さらに、海外資源開発向け融資の予算増額や融資比率の引き上げなど、かなり具体的です。
ここは日本としても冷静に見るべき点で、韓国は中国依存の現実を踏まえつつ、現実的に複線化を進めています。つまり、東アジア全体で「中国依存の供給網は危ない」という認識が強まり、各国が同時に保険を掛け始めている状態です。日本の南鳥島プロジェクトも、この流れの中で見れば、特別な話ではなく、むしろ当然の国家対応です。
4-3. G7・米国・豪州の動き
“中国依存を減らす”は、すでに国際協調のテーマです
2026年1月のReuters報道では、G7と日本・豪州・韓国・インドなどが、対中依存を減らすための重要鉱物供給網の強靭化を議論しています。ここでは、価格下落リスクで民間投資が進みにくい問題に対し、**価格フロア(最低価格保証)**のような仕組みも議論されていました。要するに、地政学上必要でも、市場価格だけだと新規参入が採算に乗りにくいので、政策的に下支えしようという発想です。
実際、Reutersは米国のMP Materials案件で政府の価格支援(NdPr 110ドル/kgの閾値)が導入され、2026年2月時点では価格上昇で支援発動を回避できていると報じています。同時に、世界の価格形成そのものが中国依存である問題も指摘されていて、これは非常に重要です。供給を増やしても、価格指標を相手に握られていれば、結局は不安定なままだからです。日本にとっても、資源開発と同時に、価格・調達・在庫戦略まで含めた設計が必要になります。
また、日本企業の動きとしては、双日が豪州Lynasからのレアアース輸入拡大を進めており、2011年からの協業に加え、重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)に続いて対象拡大の流れが報じられています。これは「南鳥島開発が本格化するまで何もしない」のではなく、足元では同盟・友好国ルートを厚くするという現実的な対応です。こういう多層的な動きは、むしろ評価すべきです。
今回のテーマで一番批判的に見るべきは、日本の研究者や実証の遅さではありません。もちろん日本側にも課題はありますが、それ以上に大きいのは、一部の国が資源供給を外交・安全保障の圧力手段として使っている現実です。ここを曖昧にして「市場だから仕方ない」で済ませるのは、かなり危険です。実際に対日向けで規制が問題化し、日本企業の調達現場にも影響が出ています。
もう一つの論点は、価格形成の透明性です。Reutersの分析記事でも、レアアース市場の価格参照が中国市場ベースであること、そして中国の供給・価格支配力が西側の供給網構築の障害になっている点が指摘されています。これは資源の“量”だけの問題ではなく、市場インフラ(価格指標・先物・ヘッジ手段)まで含めた主導権の問題です。中国の価格に世界が振り回される構造を放置したままでは、どれだけ技術開発しても投資が安定しにくいのです。
だからこそ、日本の南鳥島プロジェクトは「採れるかどうか」だけで評価してはいけません。
本当に見るべきは、
-
探査・採鉱技術
-
分離・精製・製錬の国内能力
-
環境評価と国際説明力
-
価格・在庫・調達の制度設計
-
友好国との共同調達網
この5点セットです。日本はこの全体像をちゃんと意識して動いており、SIPやJAMSTECの設計にもその方向性が見えます。ここはかなり前向きに評価していい部分です。
日本はこれから何を優先すべきか
研究を“国家の実装力”に変える段階です
南鳥島近海のレアアース泥は、日本にとって単なる資源ネタではありません。経済安全保障・産業政策・海洋技術・地政学対応が一体化した国家案件です。だから、今後の優先順位ははっきりしています。第一に、JAMSTECとSIPの実証を継続して、採鉱〜処理〜環境評価のデータを積み上げること。第二に、民間企業が参入しやすい制度・鉱区情報・技術標準を整えること。第三に、南鳥島資源の実用化までの間は、豪州など友好国ルートの調達を強化して“時間を買う”ことです。
そして、敵対国の資源カード化に対しては、感情的に反応するより、依存を減らす実務で返すのが一番強いです。
-
供給源を複線化する
-
代替材料や省資源技術を進める
-
リサイクルを強化する
-
国内の分離・精製能力を育てる
-
必要なら政策的な価格下支えや備蓄を使う
こうした現実的な対策こそが、相手の“資源を使った揺さぶり”を無力化します。相手の挑発に乗るより、供給網を組み替えるほうがはるかに強いです。実際、G7・米国・韓国も同じ方向に動いています。
まとめ
南鳥島のレアアースは「夢」ではなく、いま進行中の国家プロジェクトです
南鳥島近海のレアアース酸化物(レアアース泥)は、東京大学の資源量評価、JAMSTECの実証、SIPの制度設計、経産省のサプライチェーン戦略がつながってきたことで、かなり現実味のある国家プロジェクトになってきました。2026年2月の揚泥確認は、その象徴的な一歩です。
一方で、中国のように資源供給を政治カード化する動きは、はっきり批判されるべきです。供給網を握って相手を揺さぶるやり方は、国際市場の信頼を壊します。だからこそ、日本は研究を止めず、むしろ加速すべきです。南鳥島のレアアース開発は、日本が「技術で守る」「供給網で守る」国になるための試金石だと思います。日本の研究者・技術者が積み上げているこの流れは、素直に応援したいです。


コメント